#旅 ひろしま2

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    宮島は年末とはいえ、人で溢れていた。宮島口から連絡船で約10分。船の独特の揺れと燃料と汐が混ざった香りが鼻の奥の記憶を蘇らせる。

    下関と門司を結ぶ渡船はまだあるのだろうか。

    門司も下関も港町として栄えた街だけど、福岡と山口とでは格が違いすぎるせいか、渡船で門司へ渡ると大人への一歩という感覚があった。

    門司に渡って北九州の繁華街や遊園地で現地の女子とお互いの写真を撮りあって話しただけなのに、学校で、まるで祇園で芸者遊びをしたがごとく、脚色満載で自慢気に話してしまうのは、なんとなく大人な町で男を上げてきたような、そんな感覚のせいなのだろう。


    宮島の商店街は外国人も含め賑わっているけど、一つ道を離れると地元の生活がそのまま残っている。

    長い、反り立つような階段を昇ると見晴らしのよいお寺があって、あまり知られてない雰囲気だけど、割りと派手で、商売気の強さが滲み出るような微妙なお寺だった。

    どこのお寺にもあるけど、お線香と蝋燭があってセットで50円と割りと良心的な価格設定が意外だった。

    付けた炎からゆらゆら煙が立ち上ぼり、線香の香りが鼻の奥の、微かな記憶を刺激する。


    裏山のお寺に大晦日に行くのが楽しみだった。同い年の従兄とその姉と階段を登っていく。中学のとき従兄は引っ越して久しぶりに大晦日に会ってお寺へ行った。高校生の従兄の姉は浴衣を着てた。

    高台から下関の港町を三人並んで眺めたときの、浴衣の隙間からふんわりと漂う石鹸と従兄の姉の体臭が混ざりあった香りがどことなく淫靡な感覚を抱いたことに罪悪感を感じつつも、少し体を寄せてきた、そのときの姉の気持ちはなんだったのだろうか、と35年も前の光景が生き生きと、生々しく蝋燭の先に投影されていた。

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